なぜ、中小企業の従業員がOJTスキル研修を受講しても、OJTが現場に定着しないのか?

中小企業の経営者から、「人材育成はOJT中心で行っています」という言葉をよくお聞きします。ですが、「OJTでの人材育成の品質を高めるために、具体的にどのようなことを行っていますか?」とお聞きすると、具体的な取り組みがないケースがほとんどです。OJTで人を育てている——。聞こえは良いですが、実態としては、「何の教育も行わずに現場に放り込んでいるだけ」という状況も少なくありません。むしろ、多くの企業がそのような状態ではないかと感じています。

一方で、大企業では、OJTの質を高めるための仕組みづくりに熱心に取り組んでいる企業が数多くあります。そして、OJTが人材育成として機能し、現場に定着しています。私は、人材育成領域において、中小企業と大企業の取り組みの差が特に大きいテーマの一つが、このOJTだと感じています。

大企業の中には、OJTを単なる「人材育成の機会」としてではなく、「人を育成する経験を積み、人を育てることが当たり前だと感じる人材を増やし、人を育てることが当たり前の組織文化をつくるための取り組み」として位置づけている企業もあります。つまり、経営方針として目指す組織像があり、その重要なテーマとして「現場で人を育てる組織」を目指しているのです。経営戦略として目指す組織文化を構想し、その重要施策としてOJTを位置づけているわけです。

これまで、大企業が先行して取り組み、その後、中堅企業や中小企業に広がっていった組織人事施策には、目標管理制度、コンピテンシー評価、役割等級制度、1on1、エンゲージメントサーベイ、MVV策定と浸透、MBAエッセンス教育など、さまざまなものがあります。しかし、OJTについては、大企業では熱心に取り組まれている一方で、中小企業にはあまり浸透していない取り組みだと感じます。

もちろん、中小企業向けにも、OJTスキル研修の公開講座や企業内研修は数多く存在します。さまざまな種類のOJT研修が開催されており、多くの中小企業が従業員を参加させているはずです。経営者としても、「自社の人材育成、特に現場でのOJTを改善したい」という思いから、従業員を送り出していることでしょう。それにもかかわらず、大企業のようにOJTに熱心に取り組み、OJTが機能している中小企業は極めて少ないのが実情です。

それはなぜでしょうか。

理由はシンプルです。OJTの「仕組み」を作っていないからです。OJTの仕組みを考え、会社としてOJTで取り組んでほしいことを明文化し、必要なツールを整え、OJT担当者の意欲を引き出し、OJTスキルを学ぶ機会を設け、さらにOJTの実践を振り返る機会をつくる——。そのようなOJTの仕組み自体が存在していないのです。つまり、「OJTスキル研修だけ」が単独で存在している状態です。

そのため、OJTの仕組みという受け皿がないまま研修を受講しても、学んだ内容を活かす場がありません。研修受講後、一時的に自分なりに部下や後輩指導に活用してみることはあるでしょう。しかし、それで終わってしまいます。学びが受講者個人の中に閉じたままになってしまうのです。これは受講者が悪いのでしょうか。私は全くそうは思いません。そうではなく、会社側の準備不足が問題なのです。

具体的なOJTのケースで考えてみましょう。

例えば、社会人未経験の新入社員や、経験の浅い中途社員向けのOJTです。OJTの進め方にはさまざまな方法がありますが、よくある方法の一つに、「新入社員1人に対して、1人のOJT担当者を任命し、一定期間、例えば1年間、1対1でOJTを実施する」というやり方があります。これは、多くの大企業で採用されている代表的なOJT制度の一つです。

この場合、まず必要になるのが、「誰をOJT担当者にするのか」という考え方です。その部署の業務を高いレベルで習得している中堅社員にするのか、それとも、ようやく一人前になってきた若手社員に任せるのか。どちらにもメリット・デメリットがあります。どちらが正解という話ではありません。しかし、少なくとも「会社としてどう考えるのか」という方針は必要です。

さらに、OJT担当者を任命した後、その役割をどのように伝えるのかも非常に重要です。会社として、OJT制度をどう位置づけているのか。OJT担当者という役割がどれほど重要なのか。OJT担当者としての経験を通じてどのように成長してほしいのか。そして、新入社員にとってOJT担当者がどれほど重要な存在なのか——。このような点を、会社としてきちんと伝え、理解を得る必要があります。

また、OJT担当者は、通常業務を抱えながら、初めてOJT担当者という役割に取り組むことになります。そのため、周囲の理解や協力も必要です。経営者として、社内にどのようなメッセージを発信し、どのような空気をつくるのか。ここまででも、会社として事前に検討し、整理しておくべきことは数多くあります。

大企業では、OJT担当者に対して任命式を実施し、社長が一人ひとりに任命書を手渡している企業もあります。また、社長自らがOJT制度の重要性について講話を行うケースもあります。会社によっては、OJT担当者に手当を支給し、月に1回程度、新入社員と食事や交流の機会を持つことを推奨している企業もあります。こうしてOJT担当者が任命され、新入社員も現場に配属されました。ここから1年間、OJT制度を通じて新入社員の成長を支援していくことになります。

では、具体的に何をどのように教えていくのでしょうか。

このケースでのOJT制度は「1年間の育成プロジェクト」です。プロジェクトである以上、最初にゴールとプロセスを設計する必要があります。1年後に、どのような状態になっていてほしいのか。どの仕事を、どの程度できるようになっていてほしいのか。そのために必要な知識・経験・技術・姿勢は何か。それらを、どの順番で教えていくのか。これらを整理し、OJT計画書として具体化しておく必要があります。さらに、その計画は、新入社員本人にも共有されるべきです。また、可能であれば、OJT計画書を作成する前に、新入社員の知識や経験を確認する機会を設けることで、より実態に合ったOJT計画を作ることができます。

そして、OJTが始まると、当然ながら、うまくいくケースもあれば、うまくいかないケースも出てきます。相性の問題もあるでしょうし、OJT担当者の悩みや不安もあります。日々の業務を抱えながら、初めてOJTに挑戦する中で、精神的な余裕がなくなる人もいます。だからこそ、OJT担当者を孤立させない仕組みが必要なのです。

例えば、OJT担当者同士で計画書を共有し、教える順番や進め方について意見交換を行うだけでも、多くの気づきがあります。また、新入社員との関わり方、教え方の悩み、自分の業務との両立など、OJT担当者同士で悩みを共有し合うことで、自分自身の取り組みを振り返り、改善点を発見することもできます。

つまり、OJTを機能させるためには、「教え方の研修」だけではなく、「OJTを支える仕組み」そのものが必要なのです。OJT研修自体には意味があります。しかし、仕組みが無ければ定着しません。

ここまで読んでいただければ、外部のOJTスキル研修に従業員を参加させるだけでは、OJTを現場に定着させることが難しいということをご理解いただけたのではないでしょうか。

OJTを本当に機能させるためには、会社として全体構造を設計し、その上で、個別の研修やツールを組み込んでいく必要があります。実際にOJTが定着している企業は、例外なく「仕組み」を設計しています。

もちろん、このような取り組みには手間がかかります。しかし、一度定着し始めると、組織文化そのものが変わってきます。OJT制度を導入して4〜5年ほど経つと、OJT担当者として後輩指導を経験した人材が社内に増えてきます。すると、「後輩を育てるのは当たり前」という価値観が、徐々に組織の中に浸透していきます。面白いのは、その変化が管理職にも影響していくことです。これまで部下育成に熱心ではなかった管理職も、周囲の社員たちが一生懸命に後輩指導へ取り組む姿を見続けることで、「自分だけが今まで通りで良いのだろうか」と考え始めるのです。

“北風と太陽”のような話です。

従業員一人ひとりの知識や経験を共有し、組織全体の力を高めていく——。そんな「仕組み化されたOJT」に、貴社も挑戦してみませんか。

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