人事制度は「運用9割」ではない。設計10割!

「人事制度は運用が大事だ」「制度は完璧でなくてもいい。運用こそが重要だ」「人事制度は“設計1割、運用9割”」——人事制度のコンサルタントから、このような話を聞いたことがある経営者や人事担当者は多いのではないでしょうか。

しかし、私はこの言葉を聞くたびに、強い違和感を覚えます。もちろん、人事制度において運用が重要なのは当然です。制度は作って終わりではありません。会社を良くするために運用し、組織を狙い通りに機能させるための仕組みですから、運用が重要なのは当たり前の話です。

ですが、「運用9割」という言葉には、どこか危うさがあります。なぜなら、その言葉は裏を返せば、「運用がうまくいかないのは現場の努力不足ですよ」「管理職のマネジメント力が足りないんですよ」と聞こえてしまうからです。さらに極端に言えば、「制度そのものは多少雑でもいい。運用で頑張ればいい」と言っているようにも聞こえます。

私は、実際に多くの企業の人事制度を見てきましたが、「運用が悪い」のではなく、「そもそも制度設計が雑で曖昧すぎる」ケースが非常に多いと感じています。

例えば、業績評価でよく導入される目標管理制度(MBO)です。この制度は、導入だけであれば非常に簡単です。空欄の目標設定シートを作れば、一見それらしい制度が完成するからです。しかし、その後の運用になると、多くの企業が苦労します。

なぜでしょうか。

その大きな理由の一つは、「何を目標にすべきか」が整理されていないからです。その結果、現場では「達成しやすい目標」「評価しやすい目標」「本業とは関係の薄い目標」「やったかどうかだけのToDo目標」が大量に設定されることになります。そして期末になると、「目標達成率120%」という立派な数字が並びます。しかし、会社の業績はまったく良くなっていない——そんなことが普通に起こります。当然です。そもそも設定されている目標自体が、会社の重要成果や日常業務とつながっていないからです。

こうした状況になると、よく「管理職のマネジメント不足だ」と言われます。しかし、本当にそうでしょうか。

本来、適切な目標設定を行うためには、各職種・各役割において、「何が重要業務なのか」「どのような成果を出すべきなのか」「どこまでを任せるのか」「何を評価対象にするのか」を、会社として事前に整理しておく必要があります。そして、全従業員が自分に期待されている役割がわかり、自分にとっての重要業務と重要成果を理解できる状況をあらかじめ整理して作っておく必要があります。しかし、多くの企業では、この整理が行われていません。つまり、本来は会社として事前に設計しておくべき内容を、運用段階になってから現場に丸投げしているのです。その結果、「現場が頑張ればうまくいく」「管理職の運用次第」という構造になっています。これは“運用が大事”なのではありません。“設計不足を運用で埋めさせている”だけです。設計の手抜きです。

同じことは能力評価(≒コンピテンシー評価)にも言えます。

多くの企業では、「問題解決力」「戦略策定力」「共感性」「自律性」といった抽象的な評価項目が並んでいます。例えば、ある会社の営業部長の評価項目に、「戦略策定力:幅広い視野で環境変化を予測し、組織ビジョンを構想し、それを具現化するシナリオを策定する」という内容がありました。一見もっともらしく見えます。しかし、本当にこれで、その会社の営業部長に期待する行動が伝わるのでしょうか。私は、ほとんど伝わらないと思います。

なぜなら、その内容は抽象的すぎて、「自社として何をやってほしいのか」が具体化されていないからです。本来であれば、「どのような顧客に」「どの市場で」「どのような価値を提供し」「どのような成果を狙うのか」、そして「どのような顧客や案件の構成を作り上げていくのか」まで含めて、自社方針を踏まえて、自社固有の役割として具体化されていなければなりません。

つまり、評価項目は、単なる“能力の名前”ではなく、「会社として求める具体的な能力発揮や業務内容」を明示するものであるべきです。従業員が評価シートを見れば、「会社は自分に何を期待しているのか」が具体的に理解できなければ、本来意味がありません。しかし、実際の人事評価制度では、どこの会社でも見かけるような抽象語が並んでいるだけのケースが非常に多いのです。

その結果、現場では、「評価の目線が合わない」「評価者によって甘辛が違う」「フィードバックに納得感がない」「評価会議が揉める」といった問題が起きます。すると今度は、「評価者研修」「目標管理研修」「フィードバック研修」が繰り返されます。しかし、それでも改善しない企業が非常に多いのです。

なぜなら、根本原因が「運用」ではなく、「設計」にあるからです。

ここまでは、人事制度の評価制度における評価項目や評価構造に限定した話をしてきました。評価制度の中の評価項目ひとつとっても、制度設計において十分に検討すべきことが、不十分、雑で手抜きのケースが本当に多い状況です。そして本来、人事制度、例えば等級制度では、わかりやすい等級定義の他に、昇進昇格、降格、職種転換、役職任期制など、事前にきちんと詰めて制度化しておくべきことが他にも多々あります。また、評価制度でも、評価構造や評価項目以外にも、2次評価以降の最終結果を決める評価会議の進め方、評価決定、フィードバック面談の進め方、評価結果の処遇反映など、事前に制度として決めておくべきことが色々とあります。そうしなければ、現場の運用で必ず混乱や迷いが生じます。

つまり、人事制度は「現場が迷わず運用できる状態まで、事前に設計し尽くしておくこと」が本質なのです。それにもかかわらず、多くの企業の人事評価制度を見ると、この部分が極めて曖昧です。そして、その曖昧さを「運用で頑張れ」「運用が9割」と現場に押し付けています。

私は、これを “手抜き設計の責任転嫁” だと感じています。だからこそ、私はこう思うのです。人事制度は「運用9割」ではない。本当に大事なのは、設計10割 !

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