研修の効果測定をどのように行うか?――実は難しい話ではない

研修の効果測定をどのように行うのか――。研修業務に関わる方にとって、頭の痛いテーマではないでしょうか。
「この研修を実施して、本当に費用対効果はあるのか?」「そもそも、研修の効果をどうやって測ればいいのか?」
研修担当者は、こうした問いを決裁者や経営者から投げかけられることになります。

私にも、忘れられない経験があります。研修ビジネスを始めたばかりの頃、大手自動車メーカー系列のSIerに新規営業で訪問した際のことです。研修部門の担当者から、強い口調でこう言われました。
「なぜ研修会社は、研修サービスばかりを開発して、研修効果を測定するツールを開発しないのか。研修ばかり増えても困るんだよ。」
今でも昨日のことのように思い出します。

さて、なぜ研修の効果測定がこれほど問題になるのでしょうか?
おそらく、「研修を実施した結果、どのような効果があったのかがはっきりしない」ために、効果を“測定しなければならない”という話になるのだと考えられます。

たとえば、研修の良し悪しを判断するために、受講者アンケートを実施するケースは多く見られます。
しかしアンケートで分かるのは、「受講者にどう受け取られたか」までです。研修の効果が高かったのか低かったのかまでは、アンケートでは判断できません。(もちろん、受講者に“ウケる”ことが狙いであれば話は別ですが……)

では、どうすれば研修効果を的確に測定できるのでしょうか。

ひとつの有効な考え方は、「逆から考える」ことです。
つまり、まず育成課題から出発し、「何を、どの程度、身につけてもらいたいのか」を明確にする。そして、それを効果測定の指標として設計するというアプローチです。

たとえば、育成対象となる人材が、どのような成果を上げ、どのような業務にどのように取り組み、どのような知識やノウハウをどの程度習得することを目指すのか。これらを最初に明確にします。
そのうえで、それらの成果やスキルの発揮が、どのように「見える化」できるかを考えます。
そして最後に、「それを実現するために、どのような研修を実施するか」を検討していく。この“逆回し”の思考こそが、効果測定可能な研修企画のカギとなります。

「成果や業務が見えるところ」「知識やノウハウの発揮が見えるところ」を明確にするうえで、最もわかりやすいのは、ROI(投資対効果)を金額ベースで示すことです。

しかしながら、ROIの定量的な算出には限界があります。
仮に研修実施後に売上が伸び、ROIが改善したとしても、その要因が研修によるものか、営業施策や市場環境の変化によるものか――因果関係を明確に数字で立証するのは極めて困難です。

そのため、現実的には定性的な指標によって効果を測定する場面が多くなります。
その際、有効な指標として注目したいのが「人事評価項目」です。

人事評価制度の本来の目的は、経営戦略を実行するために、社員の行動変容を促すことにあるはずです。
「公平な評価」や「納得できる評価」といった視点ももちろん重要ですが、それらはあくまで副次的な価値であり、根本的な目的ではありません。

したがって、人材育成施策として研修を企画する際には、「人事評価のどの項目にヒットさせるのか?」を明確にしたうえで、研修設計を行うことが求められます。この検討があれば、受講後の行動や成果の変化を、人事評価の結果を通じて捉えることができ、研修効果の測定も実効性を持たせることができます。

加えて、そもそも人材育成施策は、経営戦略の実行を促進・支援するためのものである以上、出発点として「どの人材の、どの評価項目が課題になっているのか」を整理し、明確化していくことが筋だと考えます。そのためには、人事評価の結果を分析し、育成ニーズを具体化していく必要があります。

こうした流れに基づけば、「研修をやったあと、どうやって効果を測るか?」という疑問自体が、そもそも順序を誤っているように思えてきます。本来あるべき姿は、経営戦略の実行に必要な行動変容を想定し、それを評価するための評価項目を明確にし、そのうえで研修を企画・実施するという順番です。

ただし、このような設計を成り立たせるには、前提として「人事評価制度が経営戦略と整合していること」が極めて重要になります。
そしてその整合性は、制度を設計・運用する人事部門だけでなく、現場の従業員にもわかるかたちで表現されている必要があります。

逆に言えば、評価項目と経営戦略や経営計画との関連性が曖昧である場合、人事評価の結果をいくら整理・分析しても、有効な示唆を得ることは難しいかもしれません。

そう考えると、「研修の効果測定をどうするか?」を検討するうえで、本質的に問い直すべきは、次の点ではないでしょうか。

わが社の人事評価制度は、経営戦略の実行を促す設計になっているのか?

\ 最新情報をチェック /

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です