人事評価が形骸化してしまう原因とは "因果応報"
人事評価というと、多くの企業では「業績評価は目標管理で行い、仕事ぶりは能力評価(コンピテンシー評価)で行う」という構成が一般的です。しかし実態を見ると、目標管理による業績評価は形骸化し、能力評価は形式的な作業に陥っているケースが少なくありません。評価シートに基づいて評価は行っているものの、その結果に対して評価者自身がしっくり来ていない、という声も多く聞かれます。
それでも、人事評価の結果は賞与や昇給、さらには昇格にまで影響するため、半期ごとに「やらざるを得ない業務」として人事評価に取り組むことになります。その一方で、多くの評価者は「なぜこんな忙しい時期に、普段の仕事とはあまり関係のない事務作業をしなければならないのか」と強い負担感を抱えています。
業績評価のための目標管理を見てみると、日常業務とはややズレた内容が目標として設定され、結局ほとんど取り組まれないまま期末を迎えるケースも珍しくありません。また、高い評価を得るために逆算して、達成しやすい低い目標が設定されることもあります。評価上は「目標を大幅に達成した」という結果になりますが、現場の周囲は必ずしもそう評価していない、という状況もよく見られます。こうした状況が続くと、人事評価は「仕事を正当に評価する仕組み」ではなく、「自分に有利な評価を得るための社内政治の道具」として受け止められてしまいます。
一方、仕事ぶりを評価する能力評価では、「問題解決力」「共感性」「高業績志向」など、抽象的な評価項目が並んでいることが一般的です。評価者も被評価者も、それぞれの項目が具体的にどの業務のどの行動を指しているのかがよく分からないまま評価を行い、その結果をフィードバックされても、いまひとつ納得感が得られない——この状態を半期ごとに繰り返している企業も少なくありません。
会社側は「人事評価は査定のためではなく、人材育成のために行うものです。育成の視点で評価とフィードバックをしてください」と説明します。しかし、評価項目の内容は、普段の業務で指示したり支援したりしている内容とは大きく異なり、どの会社にも当てはまりそうな抽象的・一般的な表現ばかりです。そのため、現場では「人材育成のため」という説明は建前に過ぎず、綺麗事を言っているだけだと受け止められてしまいます。
さらに会社側は「評価者の理解や自覚が足りない」として、評価者研修の受講を求めます。しかし評価者からすれば、もともと納得感のない人事評価制度について、よく分からない目標管理や能力評価を“練習させられる研修”を強要されているように感じてしまいます。その結果、人事評価は「半期に一度、よく分からない項目での評価を強いられる形式的な事務作業」「余計な仕事」「苦行」として認識されるようになっていきます。
では、なぜこのような状態に陥ってしまうのでしょうか。
その最大の原因は、普段の仕事の中で本当に重要な成果や業務を、正面から評価する仕組みになっていないことにあります。目標管理で設定される目標は、仕事全体のごく一部に過ぎず、その中でも「達成しやすく、評価しやすいもの」が選ばれがちです。その結果、実際には多くの時間と労力を費やしている重要な業務が評価の対象から外れてしまいます。営業職など成果が数値で分かりやすい仕事では、最終結果や訪問件数といった中間指標の評価に終始し、「結果だけを見る評価」になりがちです。
能力評価についても同様です。問題解決力や傾聴力、自律性といった抽象的な能力項目が設定され、それぞれの能力を発揮しているかどうかを個別に評価します。しかし、このような評価方法では、仕事ぶり全体を適切に捉えることはできません。たとえるなら、大根を真っ二つに切る必要があるのに、包丁ではなく針でちくちく刺しているようなものです。仕事の全体像を捉えて評価するのではなく、ごく一部を小理屈で評価しているに過ぎません。
最近では「コンピテンシー評価」という名称で行われることも多いですが、これは本来のコンピテンシー評価とは大きく異なります。本来、採用や昇格審査などで用いられるコンピテンシー評価では、「成果の再現性」が重視され、成果を生み出していない能力発揮は評価されません。しかし、人事評価で誤って理解されたコンピテンシー評価では、成果との関係を切り離し、プロセスだけを見て能力を評価してしまっています。
結局のところ、業績評価も能力評価も、「仕事そのものを評価すること」から逃げた結果、導入時に楽である(ブランクの目標管理シートのみで導入できる)目標管理や抽象的な能力評価を安易に導入し、必然的に形骸化しているのです。
本来、仕事を正しく評価するためには、職種別×等級別に役割を明確にし、「任せる仕事」「任せない仕事」「その判断のルール」まで具体化する必要があります。その上で、重要業務(何をやり切れば評価されるのか)と重要成果(重要業務を通じて期待される成果)を明確にすることで、日常の仕事ぶりを正面から評価できる人事評価が可能になります。
目標管理が形骸化している企業の多くは、こうした職種別・等級別の重要業務や重要成果の定義を現場に丸投げしています。そのような前提条件が整っていない中で、人事評価を形骸化させずに運用することの方が、むしろ奇跡だと言えるのではないでしょうか。

