中小企業が人事制度を導入する前に確認した方が良いこと — 現在の人事制度の現状分析のすすめ① 人材管理方針の現状分析 —
中小企業の経営者から人事制度の設計や導入のご相談を受けた際、すぐに新たな人事制度の内容について検討していくのではなく、今現在の人事制度や人事管理の状況を洗い出して、その上で人事制度を設計していくことをお勧めしています(人事制度の現状分析の実施)。
明文化された人事制度がない場合であっても、何らかのルールで役職を決めたり、給与を決めたり、賞与を決めているはずです。そのため、明確な人事制度として文書化されていない場合でも、現在の状況を洗い出して現状を分析していきます。
中小企業の経営者が新たに人事制度を導入したいという考えの背景には、人事制度を設計して導入すれば、自社のこういう問題を、こんな風に解消できるのではないか、という構想や意図があるはずです。そして、今現在の状況は、経営者が考えているようには、組織や人材を動かしていくことができていない、と感じているのではないでしょうか。
現在の組織や人材が経営者が思うように動いていかない、育っていかない、人材が定着しない、などの状況の背景には、経営者が目指す方針と組織や人材の管理の方向性があっていない、ずれている、明確になっていない、という状況がよくあります。
このような点は、人事制度や人材管理の状況を1つひとつ点検していくことで、少しずつ明らかになっていきます。そして、そのようにして明らかになった点から、自社の経営方針と人事制度をつなげていくための大きなヒント、重要な課題が見えてきます。
では実際に人事制度や人材管理の現状を分析していく際ですが、おおくくりの項目としては、人材管理方針、等級制度、評価制度、報酬制度の4つの大項目で現在の状況を確認、点検していきます。そして、まずは人事制度や人材管理のおおもとになる人材管理方針(人材マネジメント方針)を確認、点検していきます。
<<確認/点検する内容>>
人材管理方針を確認・点検する際に重要なのは、「会社としてどの方向に進もうとしているのか」と、「その実現に向けて人材をどのように位置づけ、扱おうとしているのか」が、現在どの程度整理され、言語化されているかという点です。
まず、経営理念や事業ビジョン、組織として大切にしている価値観が、何らかの形で明文化されているか、またそれが現在の事業環境や会社の実態と乖離していないかを確認します。過去に策定した理念やビジョンが、そのまま掲げられているものの、実際の経営判断や現場の行動とは結びついていないケースも少なくありません。
次に、事業計画がどのような内容で作成されているかを確認します。単なる数値計画にとどまらず、「誰に」「何を」「どのように提供していくのか」という事業の方向性や、自社の強み・弱みを踏まえた計画になっているかどうかが重要なポイントです。そして、その事業計画を実現するために、どのような組織体制で、どのような人材が、どのような役割を担っていくのかが整理されているかを見ていきます。
さらに、こうした事業計画や組織のあり方が、人材マネジメントの方針として具体化されているかも重要です。採用、配置、育成、評価、報酬といった各人事施策が、場当たり的に運用されているのではなく、事業の方向性と一定の一貫性を持って考えられているかどうかを確認します。
加えて、現在運用されている人事制度が、どのような問題意識や目的のもとで導入されたものなのか、その結果として当初意図していた課題がどの程度解決できているのかも振り返ります。制度導入時の背景や狙いが曖昧なまま運用され続けている場合、制度疲労や形骸化が起きていることも少なくありません。
こうした点を整理していくことで、現在の人事制度や人材管理のどこに問題や不都合が生じており、それが経営や事業運営にどのような影響を与えているのかが、少しずつ見えてきます。
人事制度を設計して運用していく目的は、事業戦略の実行に向けて組織と人材の行動変容を促進するためです。そのために、人材を育成し、人材を定着させ、有望な人材を適切に登用しながら、組織全体として望ましい方向に動いていく必要があります。
その第一歩として、人材管理方針(経営方針の実現に向けた人材管理の考え方)の現状を丁寧に整理・確認していくことで、経営の方針と人材管理の方針がずれている点や、人事制度を検討する前に明確にしておくべき点(現在は言語化されていない点)が浮かび上がってきます。
そのうえで、より具体的な内容については、人事制度を構成する等級制度、評価制度、報酬制度の現状分析へと進み、個別の仕組みや運用の実態を確認していくことになります。
なお、本コラムでは考え方の全体像をご紹介していますが、実際の現状分析では、より具体的な質問項目や確認ポイントを用いて整理していきます。具体的な質問項目や進め方に関心のある経営者・人事責任者の方は、お気軽にお問い合わせください。


