経営計画の出発点は現状分析にある
「営業報告書を鵜呑みにしない」姿勢が未来を変える
中小企業が経営計画を策定する際に、まず最初に行うべきことは正しい現状認識です。
この現状分析が曖昧なままでは、どれほど精緻な計画を立てたとしても、土台が脆く、計画はすぐに崩れ去ってしまいます。正しい経営計画をつくるには、まず経営者が会社の現状を誰よりも深く理解していなければなりません。現状分析こそが経営計画の出発点であり、最重要工程の一つなのです。
現状分析において、特に重要な情報源のひとつが顧客の声です。顧客のニーズや要望、さらにはクレームには、事業の課題と改善のヒントが集約されています。しかし、それらの情報源を営業部門からの報告や営業報告書に依存してしまうと、肝心なことが見えてこないことも少なくありません。
なぜなら、営業担当者が上げてくる情報は、しばしば主観的かつ断片的だからです。たとえば「価格が高いから売れない」といった報告がなされたとしても、その背景には顧客側の方針転換や、競合との関係性、予算制度の変更など、もっと複雑で深い事情が隠れている場合もあります。営業担当者は、自分に都合の良い理由を選びがちであり、必ずしも客観性を保っているとは限りません。
さらに厄介なのは、顧客側が営業担当者には本音を言わないケースが多いという点です。「この担当者に言っても仕方がない」「理解されないだろう」「これまでも伝えてきたが改善されなかった」といった理由から、顧客は重要なニーズや不満を営業に伝えないという選択をしている場合があります。その結果、自社の営業担当者からは重要な情報が上がってこない、という現象が起こります。これは、営業担当の能力の問題というよりも、顧客と会社の間の情報伝達経路の構造的な限界とも言えるでしょう。
では、この情報ギャップをどう埋めるべきか。一つの有効な手段は、社長が単独で顧客のもとへ出向くことです。社長が単独で顧客を直接訪問することで、顧客側も経営幹部が同席するなど、応対の格が上がります。その場で顧客の中長期の経営方針、業界動向、競合の動きなど、より深い情報を得られることが多くなります。また、営業担当者には伝えなかった本音のクレームや要望が、社長訪問の場で初めて出てくることも珍しくありません。
もちろん、これまでほとんど訪問していなかった場合、最初の数回はギクシャクした雰囲気になるかもしれません。しかし、月に1回程度の表敬訪問を数回重ねることで関係性は確実に変化し、顧客との信頼が築かれていき、質の高い情報が得られるようになります。このような地道な対話こそが、真の現状分析を可能にするのです。
もう一つ、現状分析において軽視できないのが売上の年計管理(12か月移動平均)です。通常の月次の売上集計だけでは、季節変動や単月要因に左右されやすく、事業の本質的な傾向をつかむのが困難です。しかし、年計での売上推移を見れば、数カ月単位での上昇傾向や下降傾向が明確になり、「今、何が起こっているのか」「何が起こりそうか」が精度高く把握できます。これにより、経営者は素早い対処を行うことができ、次の打ち手も的確になります。
この売上年計分析で当たりをつけて、さらに深掘り、顧客別・商品別の売上年計分析(12か月移動平均)を見ていきます。どの顧客が成長しており、どの商品・サービスが伸び悩んでいるか。粗利の観点を含めて細かく分析することで、「稼いでいる本当の顧客・商品」が月次単位で明らかになり、逆にリソースを過剰に投入しているが利益につながっていない領域も月次単位で傾向が見えてきます。
経営者がこうした一次情報に自らアクセスし、現場を自分の目と耳で確かめる。現状分析とは部下から上がってきた情報の整理ではなく、経営者自身が「我が社の真実」に正面から向き合うプロセスなのです。
正確な現状分析なしに、実効性のある経営計画は生まれません。見誤った現状に基づいて立てた戦略は、やがて組織全体を誤った方向へ導いてしまいます。経営計画は未来の設計図であると同時に、現在地を正しく把握したうえでのみ描ける地図でもあります。
経営者が現場に足を運び、生きた数字に向き合い、顧客と対話し、自らの目で真実をつかむ。そうした覚悟ある現状分析があってこそ、現実的な経営計画が策定できるのです。