自社での活躍を考えてもらう研修は、キャリアデザイン研修ではなく「自社再発見研修」
多くの企業でキャリアデザイン研修が実施されています。これまでのキャリアを振り返り、自己の特性や価値観を整理し、将来のキャリアを描く。自己分析ツールや診断も取り入れられ、研修としては盛り上がりやすいテーマです。しかし実際には、「研修としては悪くなかったが、現場での行動は変わらない」「正直、やった甲斐があったのか分からない」と感じている企業も少なくありません。年齢の節目だから、慣例だからという理由で実施されているケースも多く、会社が本来狙っている効果が十分に得られていないのが実情です。
企業がキャリアデザイン研修を実施する本来の狙いは、従業員に自社での働き方や今後の活躍を考えてほしい、という点にあるはずです。しかし研修内容はどうしても自己理解や自分らしさ、将来の選択肢といった個人側の視点に重心が置かれます。その結果、受講者の関心は「自分は何が向いているのか」「他にどんな選択肢があるのか」といった方向に向かいがちになります。研修としては自然な流れですが、「自社で活躍してほしい」という会社側の狙いとはズレが生じてしまいます。
このズレの背景には、雇用の前提の違いがあります。キャリアデザインが重視されてきたのは、欧米のジョブ型雇用を前提とした社会です。欧米では、昇進や異動は自ら手を挙げて勝ち取るものであり、会社が一律にキャリアを用意してくれるわけではありません。ポストが空いた際に社内公募や中途採用が行われ、キャリアアップしたい人は自ら準備し、挑戦する必要があります。
一方、日本では新卒一括採用を前提に、会社主導で配置転換を行い、年次を重ねながら役割が広がっていく仕組みが長く続いてきました。最近はジョブ型人事制度を導入する企業も増えていますが、実態としては職務記述書を整備しつつも、採用や異動は従来通り会社主導というケースが大半です。このような環境下で、欧米型の前提に近いキャリアデザイン研修をそのまま導入しても、企業側がしっくりこないと感じるのは自然なことだと言えます。
企業が本当にやってほしいのは、転職も含めた個人的なキャリアビジョンを描いてもらうことではありません。自社の中で、自分はどのような役割を担い、どのように価値を発揮できるのか。その点を考えるきっかけをつくることにあります。自社で活躍し続けるための視点を持ってほしい、というのが企業側の本音です。
そのために必要なのは、自己分析を中心としたキャリアデザイン研修ではなく、自社を事実ベースで深く理解する研修です。たとえば、自社のビジネスでは顧客にどのようなものを提供して売上を得ているのか、売上として得たお金は給与や賞与以外にどのような事に使われているのか?それはなぜか、なぜ自社のビジネスに必要不可欠なのか?利益を増やすには、どのような状況が必要なのか?こうした基本的な構造を、従業員の多くが理解していないというケースは少なくありません。
さらに、自社の各部署がどの顧客にどのような価値を提供しているのか、部署間はどのような前提で連携する設計になっているのか、自社を取り巻く競争環境はどう変化しているのか、今後五年、十年で会社は何に取り組もうとしているのか。こうした点を自分の頭で考えることで、経営計画や方針に書かれている内容の意味が初めて腹落ちします。
その上で、なぜこの組織構造なのか、なぜこの等級制度や評価制度なのかを考えていくと、自分に期待されている役割や、今後伸ばすべき力が見えてきます。自社の現状と課題を理解した上で、「では自分はこの会社で、今後どのように活躍していきたいのか」「そのためにどのような取り組みを行っていくのか」を考える。このプロセスこそが、企業が本当に求めているキャリア形成の姿だと考えています。
自社での活躍を考えてもらうための研修は、キャリアデザイン研修ではなく、自社を深く知り、自社の中での自分の可能性を再発見するための研修です。言い換えれば、「自社再発見研修」こそが、今の日本企業に必要な研修ではないでしょうか。

