中小企業が人事制度を導入する前に確認した方が良いこと — 現在の人事制度の現状分析のすすめ④ 報酬制度の現状分析 — 

ここまでの前のコラム3回で、人材管理方針、等級制度、評価制度という順で、人事制度の現状分析について整理してきました。これらは、人材マネジメントの考え方や役割・期待行動を明確にするための重要な要素ですが、最終的にそれらの考え方が集約されるのが「報酬制度」です。報酬制度は、従業員の生活や働く意欲に最も直接的な影響を与える領域であり、人事制度の中でも特に慎重な確認が求められます。

報酬制度とは、「会社として、どのような価値提供や行動に対して、どのように報いるのか」を具体的に示す仕組みです。人材管理方針で掲げた考え方が、等級制度や評価制度を通じて整理され、最終的に報酬という形で従業員に伝わるため、ここにズレが生じると、人事制度全体への納得感が大きく損なわれます。

中小企業では、創業期や成長過程において、その時々の事情に応じて報酬や手当を追加してきた結果、現在の報酬構成が複雑化しているケースも少なくありません。当初の目的が曖昧なまま存続している手当や、実態としては基本給と変わらない扱いになっている項目が残っていることもあります。また、評価制度や等級制度との結びつきが弱く、「評価で重視していること」と「報酬として実際に報いていること」が一致していない状態も見受けられます。

このような状況のまま新たな報酬制度を設計・導入してしまうと、従業員からは「何を頑張れば報酬が上がるのか分からない」「評価されても処遇に反映されていない」といった不満が生じやすくなります。結果として、制度そのものへの不信感が高まり、人事制度全体が形骸化してしまう恐れがあります。そのため、まずは現在の報酬制度が、どのような考え方で構成され、どのように運用されているのかを丁寧に整理し、実態を正しく把握することが重要です。

<<確認/点検する内容>>

報酬制度の現状分析では、まず「自社は何に対して報酬を支払っているのか」という報酬ポリシーが、明確に言語化されているかを確認します。年齢や勤続年数を重視しているのか、役割や成果を重視しているのか、あるいはその両方なのか。経営者が意図している考え方と、実際の報酬水準や配分との間に乖離がないかを見ていく必要があります。

次に、基本給、各種手当、賞与など、報酬を構成する項目ごとに、その支給目的や基準が整理されているかを確認します。特に手当については、「なぜ支給しているのか」「どのような人を対象としているのか」が曖昧なまま残っているケースも多く、従業員に説明できる状態になっているかどうかが重要なポイントになります。

また、固定給と変動給のバランスも、現状分析における重要な視点です。賞与や業績連動部分がある場合、評価結果によってどの程度の差が生じるのか、最高評価と最低評価では支給額がどのくらい変わるのかといった点を、経営側が正確に把握しているかどうかが問われます。変動給の仕組みがあっても、その差が実感されない水準であれば、評価制度との連動性は弱いと言わざるを得ません。

さらに、報酬水準そのものについても、同業・同規模の企業と比較して、どの程度の位置づけにあるのかを把握しておく必要があります。短期的な人材確保だけでなく、総額人件費の妥当性や将来的な持続性といった視点から、人件費構造を確認することが重要です。

等級制度との関係では、等級ごとに設定された基本給レンジの中に、実際の給与が収まっているかどうかを確認します。レンジから外れているケースが多い場合、その理由が制度上の問題なのか、運用上の柔軟性によるものなのかを整理する必要があります。また、下位等級の従業員の方が報酬水準が高いといった「逆転現象」が起きていないかも、納得感の観点から重要なチェックポイントです。

手当については、人材マネジメントの方針と合致しているかという視点が欠かせません。生活の安定を目的としたものなのか、成果発揮や役割遂行を期待したものなのか、その狙いが現在の働き方や組織の実態に合っているかを確認します。多様な働き方が進む中で、手当の支給が従業員間の不公平感を助長していないかという点も、慎重に見ていく必要があります。

賞与については、その位置づけと役割を明確に整理することが重要です。生活保障的な要素なのか、全社業績や部門業績、個人の成果を反映するものなのか。目的が曖昧なまま運用されていると、賞与に対する受け止め方は従業員ごとに異なり、不満や誤解が生じやすくなります。また、人事評価によるメリハリの付け方が、会社の目指す方向性や組織風土に適合しているかどうかも、現状分析の中で確認すべきポイントです。

加えて、個人ごとの賞与額がどのようなプロセスで決定されているのか、経営者や管理職が説明できる状態にあるかどうかも重要です。「なぜこの金額なのか」を説明できない場合、従業員の納得感は得られません。賞与原資についても、何らかの指標やルールに基づいて算出できる状態になっているかを確認し、業績変動時のリスクを把握しておくことが求められます。

このような観点から報酬制度を点検していくことで、「手当が増えすぎて報酬の全体像が見えにくい」「評価差をつけたいが、賞与の変動幅が小さく実感されていない」「等級や役割が変わっても報酬に十分反映されていない」といった課題が、具体的な形で浮かび上がってきます。これらは、報酬制度が本来担うべき役割と、実際の運用との間にズレが生じているサインです。

報酬制度の現状分析で明らかになる課題は、単なる金額調整の問題ではありません。「何に報いるべきか」「どのような行動や成果を、評価制度と連動させて報酬に反映させるのか」という、人材マネジメントの根幹に関わる問いへとつながっていきます。そのため、等級制度や評価制度との整合性を意識しながら、報酬制度の役割を再整理することが重要です。

このようにして報酬制度の現状を把握したうえで人事制度全体の見直しを行うことで、経営方針や人材管理方針と一貫性のある人事制度を構築していくための準備が整います。報酬制度の現状分析は、人事制度設計を実効性のあるものにするための、最終的な確認プロセスと言えるでしょう。

なお、本コラムで触れた内容は、報酬制度の現状を整理するための主な観点をまとめたものです。より具体的な確認項目や、自社の状況に即した点検方法に関心のある経営者・人事責任者の方は、お気軽にお問い合わせください。

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