中小企業が人事制度を導入する前に確認した方が良いこと — 現在の人事制度の現状分析のすすめ③ 評価制度の現状分析 —
ここまでの前のコラム2回で、人材管理方針、そして等級制度について、現在の状況を確認・点検してきました。次に取り組むべきテーマが、人事制度を構成する要素の中でも、従業員の納得感や日々の行動に最も直接的な影響を与える「評価制度」の現状分析です。
評価制度は、「会社として何を重視しているのか」「どのような行動や成果を評価したいのか」を、従業員に具体的に伝えるための仕組みです。その内容や運用のあり方は、従業員の行動選択、成長の方向性、仕事への向き合い方に大きな影響を及ぼします。そのため、評価制度が経営方針や人材管理方針と適切につながっているかどうかは、人事制度全体の実効性を左右する重要なポイントとなります。
中小企業では、人事評価制度を形式的に導入しているものの、その目的が十分に整理されないまま運用されているケースも少なくありません。例えば、「評価項目が多すぎて形骸化している」「評価基準が抽象的で、評価者ごとに判断がばらつく」「成果評価と能力・行動評価の関係が整理されていない」といった課題は、よく見受けられる状況です。
こうした状態のまま新たな評価制度を設計・導入してしまうと、評価制度が本来果たすべき役割である「行動変容の促進」や「人材育成への活用」が十分に機能せず、評価に対する不信感や制度の形骸化を招くおそれがあります。そのため、まずは現在の評価制度が、どのような目的で設計され、どのような考え方で運用されているのかを整理し、実態を把握することが欠かせません。
<<確認/点検する内容>>
評価制度の現状分析では、まず「評価の目的」が人材管理方針と整合しているかを確認します。会社として育成したい人材像や、事業運営上求めている役割と、実際に評価されている内容が一致していなければ、評価制度は従業員の行動を望ましい方向に導くことができません。
次に、「何を評価しているのか」という評価対象の整理も重要な視点です。知識やスキルの習得状況、日々の業務プロセス、成果や業績といった要素のうち、どれを重視し、どのようなバランスで評価しているのか。その考え方が、従業員の仕事の性質や役割に合ったものになっているかを確認します。
また、能力や行動に関する評価項目については、その構成や数量、記述内容の分かりやすさも重要です。項目数が多すぎれば評価は形骸化しやすくなり、逆に少なすぎれば一つひとつの項目の影響が過度に大きくなります。加えて、「何をすれば評価されるのか」「何ができていないと評価が下がるのか」が具体的にイメージできる表現になっているかどうかも、実務上の重要なポイントです。
評価尺度(評語や評点)についても、評価者間で共通認識が持てているかを確認します。評語の違いが感覚的に使われている状態では、評価結果にばらつきが生じやすく、被評価者の納得感を損ねる原因となります。
成果や業績を評価する場合には、目標設定のあり方も重要な論点です。目標の内容が曖昧であったり、数が多すぎたりすると、管理や評価が形式的になりがちです。また、目標の難易度やウエート設定が適切か、当初の意図どおりに運用されているかも確認する必要があります。
評価プロセス全体についても、実態を把握していきます。評価者・被評価者が評価の流れを理解し、実務として無理なく運用できているか、面談やフィードバックが形だけになっていないか、不適切な評価を是正する仕組みがあるかといった点は、評価制度の信頼性に直結します。
さらに、評価結果がどのように活用されているかも重要な確認ポイントです。評価が昇給・賞与の算定だけに使われていないか、業務内容の見直しや配置転換、育成計画、登用判断など、人材マネジメント全体につながっているかを確認することで、評価制度が「評価して終わり」になっていないかが見えてきます。
こうした観点から評価制度の現状を整理していくと、「評価項目は整っているが行動改善につながっていない」「目標設定が評価のための作業になっている」「評価結果が人材育成に活かされていない」といった課題が、具体的な形で浮かび上がってきます。
また、評価結果の分布や、成果評価と能力・行動評価の関係を確認することで、「なぜ成果につながらないのか」「評価している能力は本当に事業に必要なものなのか」といった、より本質的な論点にも気づくことができます。
評価制度の現状分析を通じて明らかになった課題は、評価制度単体の見直しにとどまらず、等級制度や報酬制度との関係を再整理すべきサインであることも少なくありません。そのため、評価制度を単独で捉えるのではなく、人事制度全体の流れの中でどのような役割を果たすべきか、という視点で整理していくことが重要です。
このようにして評価制度の現状を把握したうえで、次のステップとして報酬制度の現状分析へと進むことで、人事制度全体を一貫した考え方で見直すための土台が整っていきます。評価制度の現状分析は、人事制度設計を実効性のあるものにするための、極めて重要なプロセスと言えるでしょう。
なお、本コラムでは考え方の全体像をご紹介していますが、実際の現状分析では、より具体的な視点や質問項目を用いて整理していきます。具体的な質問項目や進め方に関心のある経営者・人事責任者の方は、お気軽にお問い合わせください。


