社長訪問で顧客の“真の声”をつかむ

現状分析のための問いの技術

中小企業が経営計画を策定するにあたり、重要なプロセスの一つが「現状分析」です。自社の置かれた環境を正確に捉えることで、実行可能で現実的な経営戦略が立案できるようになります。
そしてこの現状分析の中でも、特に軽視されがちなのが「顧客の本音をどう拾うか」という点です。営業部門から上がってくる情報だけでは、表面的な声にとどまることが多く、顧客の実態に関わる情報はなかなかつかめません。

このような情報のギャップを埋めるために有効なのが、経営者自らが顧客を訪問し、直接話を聞く「社長訪問」です。これは一倉定氏が一貫して強調していたことであり、経営者にしか引き出せない情報がある、という事実を象徴しています。

顧客は、営業担当者には、顧客が本音を語らないことがよくあります。「どうせ言っても通らない」「この人に言っても意味がない」といった心理が働いているためです。また、営業担当者自身も、自分に都合の良い情報しか上げなかったり、ネガティブな内容を過小報告することがあります。こうした構造的な“情報の壁”を突破するには、社長自身が顧客に会いに行くしかありません。

では、社長訪問の場で、具体的に何を聞くべきなのでしょうか。以下に、いくつかの重要な「問い」を紹介します。

まずは、先方の経営方針や今後の方向性について尋ねることが重要です。
「御社の中長期的な経営の方向性はいかがでしょうか?」
「重点を置かれている事業や市場はどの分野でしょうか?」
といった質問を通じて、顧客の戦略的な動きを把握することができます。これは単に取引の継続性を探るだけでなく、自社のサービスや製品が、今後もその戦略に合致しているのかを判断する材料にもなります。

次に、顧客の現場で発生している声や不満に焦点を当てた質問が重要です。
「弊社の商品・サービスについて、不便な点やご不満な点はありませんか?」
「これまで改善を要望された点で、未対応のものはございますか?」
こうした質問をすることで、営業経由では上がってこなかったクレームや改善要望を直接つかむことができます。特に、過去に何度も要望したにもかかわらず、社内で放置された情報は、信頼関係を損なう要因にもなっている可能性があります。社長が直接聞くことで、顧客は「ようやく届いた」と感じ、真摯な声を返してくれることがあります。

また、競合他社との比較や、他社の評価ポイントについて尋ねることも有効です。
「最近、競合他社との比較で気になる点はございますか?」
「他社製品をご利用の場合、どのような点で選ばれていますか?」
このような質問により、自社の立ち位置や競争力を見直す視点を得ることができます。価格、納期、品質、対応力など、比較される軸は業種によって異なりますが、それを顧客の視点で聞けることが社長訪問の大きな価値です。

さらに、未来に向けたニーズや期待についても確認しましょう。
「今後、こういう商品やサービスがあればいいと感じられる点はありますか?」
「弊社に今後どのような役割や期待をお持ちですか?」
顧客の潜在ニーズを先取りすることで、新たな開発やサービス改善のヒントが得られます。これらの情報は経営計画に反映すべき極めて重要な材料です。

こうした質問は、決してマニュアル通りに尋ねればよいというものではありません。雑談や空気感の中で自然に出すこと、そして一つひとつの回答を深掘りしていく姿勢が何より大切です。「それはなぜですか?」「もう少し詳しく教えていただけますか?」といった追加の問いを通じて、顧客の本音が少しずつ引き出されていきます。

また、形式ばったヒアリングにならないように、“雑談力”も重要です。たとえば「最近、御社で話題になっていることはありますか?」「社内で新しい取り組みなどはございますか?」といった柔らかい質問からスタートすることで、話しやすい雰囲気をつくることができます。

社長訪問の効果は、1回限りでは見えてきません。最初の数回はギクシャクするかもしれませんが、回を重ねるごとに、顧客との関係性は深まり、より本質的な情報が得られるようになります。訪問が習慣化されることで、顧客にとっても「この会社は本気で向き合っている」という印象が定着し、信頼関係が生まれます。

現場のリアルな声を知り、計画に活かす。これこそが、現実的で実行可能な経営計画につながります。そして、それを実現できるのは、現場と顧客の“間”に立つ、社長ただ一人です。経営計画書を机上の空論に終わらせないためにも、ぜひ社長訪問を取り入れて、試して頂ければと思います。

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