経営計画書は経営者が責任をもって策定すべき
中小企業における現実をふまえて
経営計画書は、企業の将来を見据え、経営資源の配分方針を定めるための重要な設計図です。特に中小企業においては、この設計図を「誰が描くのか」という点が、企業の命運を左右するほどの意味を持ちます。結論から申し上げますと、経営計画書は経営者が全責任をもって自ら策定すべきものです。
その理由の一つは、責任の重さが圧倒的に異なるからです。中小企業では、経営の結果責任を最終的に負うのは社長ただ一人です。業績が悪化すれば、融資の返済が滞り、経営者自身が連帯保証人として私財を失うケースも珍しくありません。幹部や役員は最悪の場合でも退職という形で離れることができますが、経営者は経営の失敗に対する損失を直接的に引き受けなければならない立場にあります。
また、中小企業においては、情報へのアクセスにおいても経営者が圧倒的に優位な立場にあります。銀行との交渉内容や資金繰りの実態、個別の顧客与信、株主との関係、投資判断の背景など、企業運営の核心に関わる情報は、経営者しか把握していないことがほとんどです。幹部や役員であっても、それらの情報の全体像にアクセスすることは困難であり、的確な現状理解や将来のシナリオを描くことができるとは限りません。
こうした現実をふまえたとき、経営計画の「構想」や「方針決定」は、社長自身が責任と覚悟をもって行うべき仕事であると言えます。もちろん、幹部の意見を参考にすることは有益ですが、それは「計画を現場に展開する段階」においてこそ重要です。
会社として「何をやるのか」「どこに進むのか」という根本的な意思決定においては、全責任を負う立場である経営者にしか担えない領域なのです。
仮に、幹部との合議や妥協によって経営計画が策定された場合、以下のような問題が生じるおそれがあります。
まず第一に、責任の所在が曖昧になります。「みんなで決めた」という形式により、失敗しても誰も責任を明確に負わず、結果として誰も本気で取り組まない状態が生まれてしまいます。
第二に、現場が社長の“本気度”を感じ取れなくなります。合議によって抽象化された計画では、現場が「社長は本当にこの方針に本気なのか」と疑問を持ち、指示を額面通りに受け止めなくなってしまいます。現場が動くのは、社長の覚悟と意志がはっきりと伝わったときです。
第三に、社長自身が意思決定力を失っていきます。幹部の意見に依存しすぎれば、社長が自ら考え、判断し、腹を括るという経営者としての力が次第に鈍っていきます。変化の激しい時代において、最終的な決断を下せない経営者は、致命的な遅れを生むリスクを抱えることになります。
これらを防ぐためにも、経営計画における「構想」と「展開」を明確に分けて考えることが大切です。構想とは、経営者が全体戦略や事業の方向性を定める段階であり、展開とは、それを幹部や現場が具体的なアクションに落とし込む段階です。この役割分担が徹底されることで、組織は一体感をもって力強く動き出すことができます。
経営計画書とは、単なる数字合わせの作文ではありません。社長が自社の将来に責任をもって向き合うための「決意表明」であり、その真剣さが社内外に伝わって初めて、組織は本気で動き始めます。
中小企業において、経営者とは孤独な存在です。しかしその孤独こそが、覚悟を深め、組織を導く力になるのです。だからこそ、経営計画は社長がひとりで考え、全責任を背負って策定すべきものなのです。